Monasterium sine Libris

 

    メロヴィンジアン書体(ギリシャ角度のアンシャルとハーフアンシャル)

ファブリアーノ細目・羽根ペン・ガッシュ・金箔・金粉 他

 

20062月 第34回國際書道連盟展 準特選賞受賞作品

 

2004春にページUP)2003年冬から1年の予定で、6世紀頃のフランク王国メロヴィング王朝時代の文字の授業を受講していす。

3学期中 1学期目は、ギリシャ角度のアンシャル体の復習と そのスピードアップの書法、小文字の元になる少し崩れた大文字ハーフアンシャル体、それから それぞれの飾り文字でした。

その最終課題がこのMonasterium sine Libris(英:A Monastery without Books)” で、上半分がラテン語で、下半分はその英訳になります。

「写本の無い修道院は・・・」と始まり、「富の無い都市のようであり、壁の無い城のようであり・・・」と次々に例えが出てきて、「葉の無い樹木のようだ」としめます。

つまり、修道院にとってもっとも大切な物は写本である、という内容です。

 

下の画像は、ラテン語部分の最初の飾り文字です。

もっとも大切な単語Monasterium(修道院)とLibris(本=写本)の頭文字に、それぞれ金箔を盛り上げて施しています。

その他の光っている所は金粉で、ベースの赤紫と薄いピンク・薄い緑と金色だけで仕上げました。

当時主流だった なわ網模様を何パターンか使いましたので、少し雰囲気が出ているでしょうか。

メロヴィング王朝時代は、あまり文化の栄えた時代ではなく、写本の装飾もどちらかと言うと質素で地味(もしくは悪趣味)な雰囲気でした。

上半分のラテン語部分は特に、出来るだけ当時の雰囲気を大切にシンプルに仕上げました。

少し工夫したのは、Librisiの替わりに羽根ペンを描いた点です。

 

その下に本文として書いたのが、下の画像の濃い文字で、ギリシャ角度(ゼロ度)で書かれたアンシャル体です。

特にセリフ部分などに、その特徴がみられます。

丁寧にゆっくり書くスタイルの文字に対し、だいぶ省略されておりUやNの形も違いますよね。

3行中一番左上のSNの上の線は省略記号で、3行目左端のSINE(without)と同じ意味です。

一般的にギリシャ角度のアンシャルと言われるものと、ローマンキャピタルのクワドラタ(スクエアキャピタル)と言われる物は似ていますが、Eなどで見分ける事ができます。

本文の色は上(ラテン語)下(英語)とも、同じ色を使っています。

こげ茶に見えますが、実際は黒なのです・・・と、言うよりも、数年後にもう少し酸化して黒っぽくなるように絵の具を合わせました。

黒はすこし不透明感にかけているので、それを補う色を入れる事があります。

写真のように黒ではない色合いになりますが、実はその2種類は相性の悪い絵の具なのです。

相性の悪い絵の具同士は、いずれ酸化して、より黒っぽくなります。

(少し書き難くなるので、分離を防ぐ色も混ぜなくちゃダメですよ!)。

数年後、今よりも全体的に締まった感じなる事を期待しています。

つまり、大切な作品を作るとき、絵の具の相性はとっても大切って事ですよね。

数百年後も鮮やかな色を保つ作品を作るために、相性の良い色の組み合わせで作るべきです。

きれいなピンクのお花が白黒写真のように黒ずんでしまったらショックですから、ね。

この作品はわざとなので、OKです!

 

また、ラテン語部分の句読点についてもふれておきたいと思います。

当時は句読点に関する決まりがなく、単語と単語の間にスペースも入れていませんでした。

写本の中の息継ぎ箇所にそれとわかる印を入れたり、地方や書く人のクセもあったようです。

この作品でも、単語間のスペースは入れず、一文毎に小さな印を入れました。

もちろん当時の雰囲気を出す為ですが、英訳部分は現代風にスペースも句読点も入れています。

 

さて、下半分は、その英語の翻訳部分になります。

メロヴィング王朝時代の典型的な飾り文字を、少しだけ現代的にアレンジしました。

写本の文字や装飾は、不透明な絵の具が使われますが、この時代には一部だけ透明に透けて見える絵の具を使います。

最初のAの飾り文字には(下の写真では分かり難いですが)羽根ペンと本の背表紙を描きました。

ちょうど左右にスペースが開いたので、両脇に小さなロウソクを描いてみました。

おそらく当時は、今の私達ならば目にするだけでも震えてしまいそうな貴重な本の数々を、こんな 小さなろうそくの灯りの中で書いたり読んだりしていたのでしょうね。

そう思うと、ぼかしたロウソクの灯りも、丁寧に丁寧に描こうと思えます。

 

2段落目の大文字タイトルの下には、本文としてハーフアンシャルの文字が続いています。

アンシャルだけど完璧に大文字ではなく、少し小文字寄りの書体。

だからハーフアンシャルです。

でも、「大文字」である事には違いはないんですよ。

時代的には、アンシャルやインシュラーの草書体と同じですので、文字の連結(リガチャー)などは、それらの書体と同じスタイルが使えます。

でもちょっと難しい**

実は出来上がった作品に、一番上の行 ”is like a community” の定冠詞 ”a” が抜けていました。

Cの前に後から付け加えたので、画像のようなスタイルになっています。

正しく修復できれば、それもまた一つのスタイルです。

これは・・・どうカナ??

たぶん、大丈夫だと思いますが、来週先生に見ていただく予定です。

5/14 先生にOKをいただきました!よかった♪)

 

作品の説明は以上です。

2学期目からは小文字書体に入り、より難解になりますが、メロヴィング王朝時代という、文化史の中で忘れ去られた時代の文字を学べる環境にあることを、本当に幸運に思います。

 

 

*** 2006春 受賞によせて ***

びっくり!な、うれしい受賞でした。

いつも応援ありがとうございます!

前回の受賞があったので、「今回はありません」と事前に言われていました。

すっかり諦めていたので、喜びもひとしおです。

 

さて、ここからは、皆さんにと言うよりも、自分で忘れたくないので記します。

この作品について先生から頂いた言葉は、もっともっとがんばろう!と勇気をくれるものでした。

「この作品、わたくし忘れる事できない。美しすぎて。」

「しびれる作品です!」

「ずっと見ていたい・・・。」

こんなうれしい言葉、私の方こそ忘れられません。

この歓びと共に、この作品もまた、私にとって思い入れの大きな 一層大切な作品になりました。

 

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