“A Cradle Song” W.B.Yeats

 

15世紀フランスのバスタルダ書体

ファブリアーノ細目・羽根ペン・ガッシュ・金粉

 

20042月 第32回國際書道連盟展 入選作品

羽根ペンを使ったはじめての講座も、3期つまり1年を終えました。

15世紀フランスの2人の女性能書家の手によって書かれた、貴重な写本や手紙を元に学ぶ、バスタルダ書体と呼ばれる、ゴシックの草書体です。

3期目は文字の確認と、アレンジ、そして、美しい飾り文字を中心にまなびました。

 

作品のタイトルは「ゆりかごの唄」。

生まれてきた赤ちゃんにたいする愛と慈しみの詩です。

内容を中心に作成したら 全く違う雰囲気にしあがったのでしょうが、この作品だけは あくまでも15世紀当時の技術と美的感覚を優先しました。

色使いやデザインなど、装飾方法はできるだけ当時の物を再現しています。

タイトルの「A」の部分には、当時その地方で好んで使われていた豪華なスタイルの装飾を施しました。

たくさんの豪華本の作られた、華やかな時代です。

金粉をふんだんに使い、植物や小さな虫などを描く事が流行ったようですね。

「小さな物も描ける」という、イルミネーターの腕自慢でもあったそうです。

文字の本体には、白いリボンに巻かれたような模様を入っています。

どんなに小さな部分でも、必ずハイライトなどをいれます。

 

タイトルの文字は目立つように赤で。

赤は華やかで目を引きますが、当時はとても珍しい貝から取れる絵の具を使っており、大変貴重でした。

注意を引きたい単語、文章の導引部分などに良く使われていました。

さて本文ですが、赤文字のタイトルを含め、もちろんすべて羽根ペンで書いています。

2期目のカデルスの練習などで、羽根ペンにはだいぶ慣れていたので、この作品は、あまり神経質にならずに書き進めることができました。

2期目の作品はコチラ→ “song” 詳細ページ

羽根や竹、葦などの自然の物には、元々数え切れないほどの繊維があり、弾力もあります。

そのため、絵の具の持ちや文字の躍動感は、金属ペンの比較になりません。

特に、糸のように細くて伸びやかな、ながーい線は、羽根ペンでないとキレイに出せません。

つくづく、自然ってすごなぁと思ってしまいます**

始めの頃は、羽根の切り方、扱い方・弾力に かなりてこずりましたが、3期を経て、だいぶ慣れることが出来ました。

 

この作品では、2期目の作品 “song”とは違って、なるべく現代でも読みやすいようにリガチャーを初めとしたアレンジを控え、シンプルに書いています。

実際はとてもアレンジの多い書体で、慣れていないと読み解くのはまず不可能な書体ですので、書家としては腕を振るいたいところです。

しかし、この美しい飾り文字を中心にした作品を作ってみたいなぁと思いました。

シンプルにした代わりに、羽根ペンの特性を生かし、繊細で華やかなラインを心がけましたので、そちらに注目していただきたいと思います。

文字の高さや幅も、基本はあるとはいえ、比較的書家の癖が出やすい書体ですが、私は少しXハイトが低め&幅のあるタイプで、でも細い線や角のハッキリした書き方が好きです。

 

さて、各項目の飾り文字についても少し触れたいと思います。

右上の画像のなかで、左にちょっぴり見えている「G」は、タイトル「A」の別バージョンです。

レモン色のハイライトが軽やかで、この色の組み合わせはとても珍しいですし、美しいと思います。

どのスタイルの飾り文字も、華やかな時代がしのばれるものばかりですよね。

私は、この「A」ではなく「G」の方の飾り文字が、なかなかバランス良く描けずに苦労しました。

 

さて左の画像は、文末の小さなイチゴのアップです。

かわいく描けたので、おまけに載せようと思います**

原寸では、イチゴの直径が約5mmで、本文と詩人の名前のあいだに描きました。

上の「A」もそうですが、イチゴの種ひとつひとつのハイライトにも金粉を使うほど、当時は豪華なスタイルは徹底されていたようですね。

本文最後の行のを引き伸ばしてたら、ちょうどイチゴを描く予定の場所に来たので、ツボミ (みたいなもの?) を描き足してみました。

思いがけず良い効果を生みました。

ラッキー♪

 

1年のあいだ、羽根ペンに慣れ、難しいアレンジをマスターすることに集中してきましたが、来期からはまた新しいクラスが始まります。

文字のクラスでは、金属ではなく羽根での受講になると思いますので、また新しいチャレンジです。

 

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