** 文字書体 **
書体(文字のスタイル)の種類は、数限りなくあります。 同じ書体でも、何パターンにも書き分ける事も珍しくありません。 今回は私の作品から、特徴のわかり易い部分をご紹介します。
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ROMAN CAPITALS BUILT-UP
ローマンキャピタル・ビルトアップ
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AD1世紀から続く、全てのアルファベットの基本的なスタイルです。
彫刻などでも よく見られる、ローマの大文字です。
定規やコンパスを使って形成した文字なので、本当の意味ではカリグラフィーとは言いませんが、殆どの書体と組み合わせが可能で、「正式なもの」「大切なもの」という印象を与えるクラシカルな美しい書体です。
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ROMAN CAPITALS(square)
ローマン・スクエア・キャピタル
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同じくローマ大文字体の一つですが、これはペンを基線に対して0(ゼロ)度にあわせて書くスタイルです。
真四角に近い形になるためスクエアと言い、クワドラタとも言います。
ビルトアップと同じく、碑文にも良く使われ、多くの書体と組み合わせが可能な、クラシカルな書体です。
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RUSTICA
ルスティカ
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10世紀頃まで使われ続けるローマ大文字体の一つ。
ペン角度が高く、三角のセリフ&ダイヤモンドのフットセリフが特徴的です。
縦長の書体で、Oをもとにした文字が、全体的に、少し左に傾斜しています。
画像の文字はCODEX PALATINUSという写本の文字を元にしています。
カロリン体などとも よく組み合わされます。
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LATIN UNCIALS
ラテン角度のアンシャル
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キリスト教初期に広い地域に渡って長い期間使われた、大文字書体です。
ギリシャ文字に影響を受けており、シャープにも柔らかくも、そしてシンプルにもエレガントにも表現できる、美しくて使いやすい書体です。
文字延長・連結も多く、多彩な表現ができます。
ケルティック装飾との組み合わせが、よく見られます。
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GREEK UNCIALS : 1
ギリシャ角度のアンシャル(普通)
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上のアンシャル体をギリシャ角度(ゼロ度)で書くスタイル。
ローマン・スクエア・キャピタルと酷似していますが、EやGの形に違いが見られ、丸い印象がところどころに見られます。
古文書学者の中では、アーティフィシャルアンシャルとも呼ばれています。
(下手な見本しかなくてすみません・・・更新をお待ちください。)
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GREEK UNCIALS : 2
ギリシャ角度のアンシャル(早く書くタイプ)
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上のギリシャ角度のアンシャルを、スピードをあげて書くスタイルです。
丁寧にかかれたグリークアンシャルと見比べると、セリフにあたる部分が、だいぶ簡略化されています。
この頃まで、写本用書体(Book hand)には大文字のみ使われていました。
作品詳細ページ : ”Monasterium sine Libris”
(←Click!)
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UNCIALS EXPANDED LETTER : 1
拡大された文字(アンシャルの時代)
例:N&Y
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上記の拡大されたアンシャルをベースにした拡大文字で、この時代の写本に良く見られます。
ペン先を使って、アンシャル体を拡大してデザインします。
赤い点々を使ったケルトの飾り方にも良くなじみ、画像例のように、分割線でのデザインもよく見られます。
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UNCIALS EXPANDED LETTER : 2
拡大された文字(アンシャルの時代)
例:N&Y
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上記の拡大されたアンシャル文字の、別バージョン。
幅のあるペン先ではなく、とがったペン先を使ってデザインすると、左の画像例のようになります。
インシュラーのビルトアップとも共通する部分が多く、基本的にはカリグラフィーではない、ビルトアップ書体です。
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INSULAR MINUSCULE
インシュラー草書体
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6〜9世紀に、ヨーロッパ(大陸側)ではなく、イギリスなどのインシュラー(島国)で発達した、独特の雰囲気を持つ凝縮された小文字書体。
写本の為に使われた世界最古の小文字書体で、大陸に伝えられました。
多くのリガチャーや変形を駆使して表現され、とても興味深い書体です。
作品詳細ページ : ”Isti
Canones” (←Click!) 他
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INSULAR MAJUSCULE
インシュラー大文字体 (トゥンサエ)
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7世紀から9世紀の書体。有名なリンデスファルヌの福音書やケルスの書に見られる大文字書体で、三角のくさび(トゥンサエ)のようなセリフが特徴。
アンシャル・インシュラー草書体と共通する、複雑なアレンジが可能。
←分りやすい画像お待ちください。
左の画像の、右下の3単語が該当。
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INSULAR BUILT-UP
インシュラー ビルドアップ
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アンシャルの拡大文字に似た、インシュラーの拡大文字。
小文字の形状にも影響を受けています。
アンシャルの大文字と同じく、ケルトの飾りとも良く合います。
左の画像例に見られるターコイズのシマシマは、一般的なものではなく、ある写本(忘れたので調べておきます)の中に使われた物です。
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CELTIC BUILT-UP
ケルティック・ビルトアップ
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直線が印象的な、細長いケルトの大文字。
ケルトの伝統的な装飾方法である、なわあみ模様や渦巻模様、ドットなどと組み合わせてよく使われています。
有名な「リンディスファーンの福音書」や「ケルズの書」でも、その素晴らしいデザインの数々を見る事ができます。
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MEROVINGIAN (HALF UNCIALS)
メロヴィンジアン (ハーフアンシャル)
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仏・メロヴィング王朝時代、それまでのアンシャルから、少しずつ小文字に近づく過程の大文字体です(まだ大文字です)。
多くの箇所に、後の時代の小文字に繋がる特徴が見られます。
インシュラー草書体やアンシャルに共通するリガチャーや変形が見られます。
作品詳細ページ : ”Monasterium sine Libris”
(←Click!)
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MEROVINGIAN(LUXEUIL MINUSCULE)
メロヴィンジアン (ルクソイ修道院草書体)
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仏・メロヴィング王朝時代、ルクソイの修道院で使われた小文字書体で、写本用書体(Book hand)に小文字書体を使い始めた初期の書体です。
物資の少なかった時代、現存する写本はきわめて少なく、貴重な物です。
この時代の小文字の中では、比較的安定していて読みやすい書体です。
作品詳細ページ : “The Thing...” (←Click!)
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MEROVINGIAN (キルデベルト三世の書記書体)
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上記と同じくメロヴィング王朝時代の草書体。
キルデベルト三世の書記官の使った文字を基本にしていますが、本来の書記書体は、さらに長く長く引き伸ばしたり、リガチャを多く使ったりと、大変に読みにくい書体でした。
作品詳細ページ : “love letter.” (←Click!) “for MG.”
(←Click!)
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CAROLINGIAN MINUSCULE
カロリン
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8・9世紀、各地で独自に発達した、多くの文字を統一する為に、シャルル・マーニュ(カール大帝)が、アルクィンに命じて作らせた小文字書体。
低いXハイトのおかげで、安定した印象です。
丸い本体に、Xハイトの2倍以上の高いアセンダ−、三角のセリフが特徴的で、いくつかの素晴らしい写本が残されています。
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LOMBARDIC INITIALS
ロンバルディック
(例:AM)
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ロンバルディー地方(仏)の拡大文字で、アンシャル体に基づきます。
この時代以降、長い時代、広範囲にわたって多くの書体と組み合わせて使われた、美しい拡大文字です。
左の画像(AM)では、金箔やフィリグリーと組み合わせていますが、もちろん色のみのシンプルな装飾例も多く残っています。
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12th CENTURY COMPRESSED FORM
12世紀のコンプレスト体
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12世紀に入り、羊皮紙が不足し始めたため、前の時代まで使われていた丸い書体がコンプレスト(凝縮された)形状になりました。
大変多くの美しい写本が残っており、繊細なフィリグリーや細密画と合わせて、目にする機会の多い書体です。
作品詳細ページ : ”A Chair for Scribes” (←Click!)
作品詳細ページ : ”William Tell”
(←Click!)
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GOTHIC TEXTURA
ゴシックテクスチューラorクワドラタ
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13世紀から良く使われた、ゴシックの典型的な書体です。
一定間隔に並ぶ直線と、上下のダイヤモンドが特徴的です。
紙の貴重な時代、目一杯 凝縮させてこの形になりました。
布織物のように見えるところからテクスチューラ、また、凝縮されて、紙が文字で真っ黒に見えるところからブラックレターとも呼ばれます。
作品詳細ページ : ”HONOUR” (←Click!) 他
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French Gothic Bastarda
15世紀フランスのゴシックバスタルダ(草書体)
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15世紀(仏・蘭・独)によく使われた、ゴシックのバスタルダ(草書体)です。
バスタルダ(偽もの)でもあるので、正式な文字と認められない風潮もありましたが、エレガントで力強い、美しい書体です。
アレンジやリガチャーが多く複雑で、読みにくいところも多くあります。
作品詳細ページ : ”A Cradle Song” (←Click!) 他
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CADELS カデルス(B・H他)
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ゴシック諸書体で書かれた写本などに見られる、ペン先のみでXハイトの15倍以上にも引き伸ばして表現された、拡大文字のスタイルの一つです。
複雑に交差を繰り返す本体や、長く引き伸ばされた伸びやかな線、ペンの角を使ったヘアラインなど、昔の人々の情熱と技を感じます
作品詳細ページ : ”SONG” (←Click!) 他
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ROTUNDA
ロートゥンダ
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南ヨーロッパで広く長く使われた書体。
左半分が角張り、右半分が丸い、珍しい形をしています。
文字を続けて書かず、1文字ずつ直角に処理するため、手間と時間がかかり、貴族がお金をかけて作らせるような豪華本に良く見られます。
多くの写本が作られた、華やかな時代の始まりです。
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ITALIC CHANCERY (普通)
イタリック ローマ法王庁書記書体(普通)
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目にする機会の多いイタリック体。
「イタリア地方の・・・」ですが、当時はイタリアという国はありませんでした。
この書体は、イタリックと総称される中でも、ローマ法王庁の書記官たちが使っていた、流暢なスタイルです。
ペン先の傾斜のコントロールで、エレガントな印象になります。
読みやすいので、よく使われ好まれています。
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ITALIC CHANCERY (シンプル)
イタリック ローマ法王庁書記書体(シンプル)
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シンプルスタイルという書体名があるわけではなく、上のイタリック体を続けて書かずに、一つ一つ止めて処理をしたスタイルです。
通常のスタイルと同じく、カーブはなだらかに角をつけずに書きますが、アセンダーとディセンダーの処理で、だいぶ印象が変わります。
大文字はローマンキャピタルのシンプルスタイルと同じです。
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ITALIC CHANCERY (スワッシュ)
イタリック ローマ法王庁書記書体(スワッシュ)
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シンプルスタイルとは逆に、スワッシュつまり、勢いよくはねたり伸ばしたりしたスタイルを言います。
基本的な文字を学んで、文字のつくりが理解できれば、引き伸ばす事のできる場所や向きがわかってきます。
Xハイトを高めに設定すると、細くて繊細or伸びている雰囲気になります。
←例の大文字のみ
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GOTHICIZED ITALIC
ゴシサイズド・イタリック(傾斜なしver.)
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20世紀に入って新たに考え出された、新しいイタリック体です。
カーブに角をつけてゴシック風にしたスタイルで、柔らかさと力強さを同時に表現できる、美しい書体です。
新しい書体なので、モダンな雰囲気に作品を仕上げるとステキです。
フローリッシュなどを活用して、華麗に仕上げる事もできます。
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FOUNDATIONAL
ファンデーショナル
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20世紀の有名な書家・エドワード・ジョンストンによって作られた、新しいスタイルのカロリン体です。
ペン角度も低く、安定した 読みやすい書体で、アセンダーやディセンダーも それほど高くは伸ばしません。
カロリン体の名残で、三角形のハッキリしたセリフがつきます。
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20TH C. GERMAN GOTHIC
20世紀のゲルマンゴシック
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オーストリアのNEUGEBAUER(ヌュゲバウアー)氏によって、20世紀に入ってから新たに考え出された、現代のゴシック体。
今もゲルマン地方で日常的によく見られる、モダンで洗練された書体です。
ペン先の角度のコントロールが特徴的な、面白い書体です。
少し傾斜させる書き方もありますが、私はまっすぐが好きです。
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時代は少し重なったり前後したりしていますが、だいたい(だいたいですけど・・・)時系列です。
ちょっと、聞きなれない単語もあったかもしれませんね。
概論だけですが、書体の雰囲気を感じていただけたでしょうか。
続いて、書体以外の装飾などの説明を見てみてください。
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** 文字以外の技術(一部) **
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テンペラと 金箔のギルディング
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テンペラ:
テンペラは、大まかに言うと「質をかえる」というイメージです。
タマゴ・ハチミツ・天然ゴムなどを使用して、通常使っている絵の具の
質感を変化させ、重たい印象にする事ができます。
上から金彩を施す時などは、とても効果的です。
金箔ギルディング:
金箔を膨らませて張り付ける処方と、平らに張り付ける処方があります。
また、下地に使う材料により、直接磨けたり磨けなかったりするので、
輝き方も変わってきます。
使い分ける事により、さまざまな表情を 自由に表現する事ができます。
金粉ギルディング:
薄く広範囲に塗る場合と、細い模様を描く場合とでは、ノリの代わりに
混ぜて使う材料の種類や配合が微妙に異なります。
扱いなれると、極細い模様でも、驚くような輝きを出す事ができます。
ペンで文字を書く事も可能です。
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テンペラと 金粉のギルディング
(塗潰し&線)
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上薬による光沢
(羽根の部分)
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画像例で、羽根の部分が光っているのが見えるでしょうか。
羽根を描いた後、上薬をかけて光沢を出しています。
目立たせたい・強調したい部分に使うと効果的です。
上薬にはいくつかの種類と方法があり、たいていは耐水性があります。
天然素材の質のよい物を選ぶ事によって、化学反応などによる下絵の変質や変色は防ぐ事ができます。
作品詳細ページ : 「自画像」 (←Click!) 上の二つも同じく。
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紋章
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カリグラファーには、紋章の知識も必要になります。
西洋の紋章は、家というよりも、個人を現す事が多く、それぞれに持ち主のアイデンティティーを盛り込んで作成します。
色・形・デザインなど、それぞれに意味と決まりがあり、どこのどういった人物かがあらかたわかるようにできています。
実際には、全ての正式な紋章は、各国の紋章院(紋章省)で管理されており、そこで認められた者だけが作成を許されています。
紋章ページ : HERALDRY (←Click!)
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ケルティック・デコレーション
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アンシャル体・インシュラー草書体などとの相性の良いケルトの写本装飾は、組ひも・うず巻・カーペットページなど、特徴的なものが数多くあります。
頭を悩ますような、込みいったデザインが目立ちますが、しかし、それらにはある程度の規則性があります。
マスターすることにより、新たなデザインの要素を取り入れる事ができます。
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オットー朝、ライン川沿いの飾り文字
*画像待ち*
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11世紀ドイツライン川沿いの地方に栄えた、オットー朝ハインリッヒ2世のペリコペンブフに代表される装飾方法。
金のバーを曲げたような、ほぼ(ほぼ、です。)一定の幅でデザインされた、金箔の頭文字の中を、特徴的な3色で塗ってあります。
豪華で大胆な印象で、作品の中で、とても印象的にうつります。
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サンクトガレンの装飾
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スイスのサンクトガレン修道院で作られた写本で使われていた装飾方法。
左の画像例は、AとLの組み合わせです。
通常、紋章と同じく、金銀を密着させる事の少ない中世装飾の中ではめずらしく、盛り上がった金箔の中を銀で塗りつぶすという手法でデザインします。
つる草模様と赤の縁取りの鮮やかな、豪華な装飾方法です。
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フィリグリー
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極細い飾り模様の事を総称して呼びます。
左画像例のように、ペンの角を使って草花模様を描くものと、上の方にあるロンバルディックの画像例(ターコイズの部分に白い模様)のような、筆で描くものがあります。
作品詳細ページ : ”EASTER”(製作記録) (←Click!)
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メロヴィング王朝時代の装飾
☆画像お待ちください☆
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物資も少なく、文化芸術の栄えなかったこの時代は、「失われた時代」とも言われています。
数少ない残された写本に見られる、この時代の装飾の特徴は、魚や鳥の絵を多用し、透明な色を使うという点です。
もしくは、ケルト装飾や、画像見本のような幾何学模様なども使われました。
作品詳細ページ : ”Monasterium sine Libris” (←Click!)
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マーブリング
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色が自然に移り変わっていくように、書いていきます。
後から色を足すのではなく、ペンに色を入れていくのですが、普通に2色3色を入れていくと混ざって汚くなります。
そこで、「他の絵の具と混じりにくい種類の白」を間にはさみます。
内容にあわせて、色を微妙に変化させるのが楽しいテクニックです。
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